「ロボット・イン・ザ・ガーデン」(インストール)

一台のロボットと二人の大人の成長物語

「ロボット・イン・ザ・ガーデン」
(インストール/松原葉子訳)
 小学館文庫

ある朝、ベンの家の庭に現れた
旧型ロボット・タング。
他のアンドロイドにはない
「何か」を感じたベンは、
造り主を探そうと考える。
妻・エイミーは、そんなベンに
愛想を尽かし、家を出る。
ベンはタングを連れて
アメリカへと渡る…。

本作品は、AIが家庭に浸透した
近未来を描いています。
家庭用アンドロイドが普及した
世の中なのです。
そんなスマート社会において、
20世紀初頭の人々が
イメージしたような、
いかにもロボット然とした
ロボットが現れるのですから
当然そこからドラマが生まれます。
どんなドラマか?
成長物語です。

成長物語①
ロボット・タングの学習

タングは見かけは旧型ロボットでも、
内部構造は最新型らしいのです。
他のアンドロイドとは違う「何か」、
それは彼に搭載された
人間的感情を持つAIなのです。

はじめはベンとのコミュニケーションも
限定的でしたが、
1ヶ月の旅の中で、タングは学習を重ね、
次第に心を通わせるようになるのです。
それも子どものような心を。
本作品は、ロボット・タングの
無機質な存在から
血の通った子どもへと進化する
成長物語なのです。

成長物語②
モラトリアム男・ベンの自分探し

一方、主人公・ベンは
大人になりきれていない大人、
つまりモラトリアム人間なのです。
財産家の両親を事故で亡くし、
その傷が癒えぬまま
獣医師になる夢を諦めました。
そのまま定職にも就かず、
それでいてやり手の弁護士を
妻に持ったのですから
うまくいくはずがありません。
彼は妻から離婚を切り出されます。

しかし彼は、
タングとともに旅を重ねるうち、
自分に欠けているものを見出すのです。
あたかも試行錯誤を繰り返しながら
子育てをしていく父親のように。
本作品は、モラトリアム男・ベンが、
自分と向き合い大人になっていく
成長物語なのです。

成長物語③
完璧女・エイミーの人間らしさの回復

ベンの妻・エイミーは、
貧しい家庭に育ちながらも
弁護士として
活躍できるようになったのです。
ベンの持つ「何か」に引かれて
結婚したものの、
家庭を作ろうとしない夫に
愛想を尽かして家出します。

1ヶ月の旅から帰還した
ベンの変容を見て、彼女もまた
自分を見つめ直そうとするのです。
タングとの再会から、
彼女の張り詰めた心もまた次第に
しなやかさを回復していきます。
本作品は、完璧すぎる女性・エイミーが
自分の心を取り戻す
成長物語なのです。

少年少女の成長物語は、
古今東西あまたありますが、
一台のロボットと
二人の大人の成長物語は、
本作品以外見当たりません
(私が知らないだけかも知れませんが)。
中高生、
そして大人のあなたにお薦めします。

※すでに2作目
 「ロボット・イン・ザ・ハウス」、
 そして3作目
 「ロボット・イン・ザ・スクール」が
 刊行されています。

(2020.5.6)

Erik SteinによるPixabayからの画像
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